お知らせ

英語英文勉強会をZOOMにて開催しました

2022年3月26日(土)、英文学者、東京大学名誉教授、高橋和久先生を講師に、英語英文勉強会「Orwell, Nineteen Eighty-Fourを率直に読む」をオンライン開催いたしました。高橋和久先生は長年、日本英文学会の会長を務められました。日本の英文学研究のリーダーとして活躍されています。さらに言葉、言語、表現にこだわった文学者としても多くの尊敬を集められています。ジョージ・オーウェル『一九八四年』、ジョセフ・コンラッド『シークレット・エイジェント』などの難解な作品の翻訳は、名訳として評価の高いものです。


当日の資料には、わざわざ「夜話」などと気楽な副題がつけられていました。先生の穏やかな語りは分かりやすく心に響くものでした。津田塾大学の同窓生だからと、先生は当日ぎりぎりまで資料の推敲に努められていたことを隠し、淡々と話されます。けれども自分の話はどのようなレベルからでも楽しめるのだという文学者らしい自負もこめられ、文学に対する強い自信もうかがわれました。引用文献として選ばれた文章こそ何重もの意味のあるものばかりでした。そして参加者のだれもが各自の自主性に合わせ作品を読むことを励まされました。
表題の「率直に読む」に、オーウェルをどのように率直に読むのか、前もって期待が持たれるところでした。パラテクスト、テクストを取り巻く外的なテクストの提示の意味を考えると、必ずオーウェルの政治的視点にぶつかるのだというのが定説です。だが、それらは文学にとっては、障害ともみなされると、先生は淡々と語られました。作者自身、政治的な小説として読まれることは好まなかった。オーウェルはmake political writing into artを目指した。それが言語、言葉への執着を生み、言語芸術としての小説を生み出した。そのため高橋和久先生は、雑音から切り離して評価できるものにするため、作者の意図に沿うため、雑音を外し「『1984年』を素直に読む」ことをひたすら追求されました。人の心、感情、言葉、言語、イメージを中心に丁寧に読んでいきます。詳細な資料は的確にそのキーワードを捕まえて、オーウェルの文学を「見せて」くださいました。だが不思議なことにというか当然なのか、最後には雑音としたものはすべて、改名され、集中されてこの小説の意味「読み替え、改ざん」「内面の自由を切り崩す装置」の恐ろしさをおのずと描き出していることが判明します。「ネズミの恐怖」という「気持ちの悪い」キーイメージを強調し、この世界の「気味悪さ」を表していたのです。人間の内面的真実と外面からの過剰反応、そしてウィンストンとジュリアとの純粋な恋も実は手ひどい裏切りであり、これ以上ないほどの恐ろしい結論だった。この作品の無残な怪奇さを、各自が読みこむ自由が強調されました。私どもはひたすら文学的方向に作品を読み取りながら、おのずとあぶりだされてくる「雑音」(として切り捨てようとしたもの)に包まれ、文学鑑賞の極致にいる不気味な幻想に入り込んでいるのです。高橋ワールドに自然に引き込まれてしまったのかもしれません。その結果は、逆説的であれそれによってのみ救われるという個性ある独自の読みの重要性を知ることになりました。


同窓会主催の勉強会は、幅広い興味、好奇心の旺盛な多方面からの参加者を集めてきました。各方面で活躍する講師の先生方からの内容の濃いお話を聴き、他の講演会では味わえない先生や同窓生同士の交流も魅力の一つとなっています。同窓生の「生涯学ぶ」長い列をつなげていくものです。

今回時宜を得た表題のためか多種多様な同窓生の参加がありました。学生時代に勉強しその原著をまだ持っている方、文学に興味をひかれるようになりこれをチャンスに読み返した方、国際問題に強い関心を寄せる方、また、本著を読んでないが是非、お話を聴きたい方、さらには講師の先生の幅広い活躍を知る翻訳関係の方々などです。初めてオンライン受講に挑戦された80代の方のご参加もありました。

無事に終了し、担当者一同安堵しております。地域を特定せずに開催できるオンラインの活用は、今後の同窓会の新しい活力にもつながっていくことでしょう。


会員専用ページもご覧下さい
https://tsuda-jyuku.org/member/login

講師の高橋和久先生

当日のプログラム

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