お知らせ

国際関係勉強会をZOOMにて開催しました。

2021年10月23日(土)開催のオンライン勉強会
市川裕先生(東京大学名誉教授)
「ユダヤ人の歴史を貫くもの」

今年度の国際関係勉強会は、昨年秋に千駄ヶ谷キャンパスの同窓会会議室での勉強会となる予定でしたが、コロナ禍で一年延期となり、完全オンラインの勉強会となりました。
市川裕先生は、ユダヤ教研究、聖書とタルムード等の宗教思想研究、宗教史の分野において日本を代表する宗教学者です。講義は離散ユダヤ人/教徒の歴史における重要なキーワードを提示した概論であると同時に、今回は津田塾同窓生のために、特に「ユダヤ人の歴史を貫くもの」がその教育にあったという趣旨で、教育の側面を重視する内容構成にしたと講師からその意図をうかがっております。実際の講義の節目では「質問」を受講者に向けて出し、重要な論点を示していかれました。津田梅子が自らの学生に「生涯学ぶ」ことの大切さを唱えていたように、ユダヤ人社会も学校を作り学ぶことを重視してきた共同体であることなど、津田塾の校風との共通点を念頭に入れたお話が織り込まれていたのが印象的でした。

なぜユダヤ人/教徒たちが古代から広範囲に存在できたのか、マイノリティでありながら、歴史に埋没せず生き残った要因はなにか?という問いかけから始められ、まず3つの先入観念を見直すことが促されます。その先入観念とは、「自己中心的な選民思想」の民族宗教、「閉鎖的形式的な律法主義」の宗教であると思い込まされている先入観念。2つ目に、「流浪の民、賤しい金貸し」のイメージ、そして3つ目に世界支配の陰謀論で誹謗中傷され、反ユダヤ主義、そしてショアー(大量虐殺)の犠牲になった民であるとのとらえ方について再考するという出発点と目標が明確に示されます。問い直すべきは近代西欧(キリスト教)史観であるとして、西欧キリスト教中心主義が及ぼしたユダヤ教観からの脱却が重要であると強調されます。

講義内容は詳述できませんので、主要な事項だけを列挙します。

1)ラビ・ユダヤ教の成立:共同体を率いたラビ(ユダヤ教指導者)たちの役割、そして社会の維持を助けたモーセ五書「トーラー」とそれを柱とした口伝律法典「ミシュナ」の存在。ミシュナはいわば「持ち運びできる国家」。同じ啓示法の宗教であるイスラームとの共通性。
2)近代国民国家の成立によるユダヤ人解放と反ユダヤ主義の苛烈化:平等、人権、信教の自由が尊重される一方、「よそ者」としての差別と排斥を受ける。
3)ユダヤ人/教徒は大きく3分類される:①アシュケナジーム、②スファラディーム、③ミズラヒーム。
4)古代と近現代の間(中世)にユダヤ教徒が最も栄えた地域は基本的に西アジア:イスラーム地域の主要な町に集住し、広範なネットワークを形成していった。
5)ユダヤの本流は東欧ユダヤ、イェシーバーによる教育の重要性:ユダヤ人の歴史を貫くものとは律法の学習と実践。東欧のユダヤ人は人口も多く、自らの独自文化を維持することができた。イェシヴァ(タルムードを学ぶ場所、学院)が文化継承を支える。

質疑応答の時間にはzoomのチャットで質問が数多く出され、世界に影響力のあるユダヤ人が輩出する背景、現代史に関するものなど、質問は多岐にわたりました。

視聴された人たちからのアンケートの回答には、講師のわかりやすく誠実な講演に感銘を受け感謝したいとの言葉が多くありました。また、別の切り口からユダヤ人の歴史を理解できるような勉強会とか、イスラーム理解の勉強会を開催してほしいとの要望もあります。

当勉強会は参加人数枠40人に達してしまうのが早かったので、残念ながらお断りしなくてはならない受講希望者も多くありました。その方々にはお詫び申し上げます。一方、オンライン講座となったことで、海外の同窓生の参加も可能となり、8〜9時間の時差があるにもかかわらず、英仏独蘭などに在住する数名が受講されました。新しい勉強会のスタイルが生まれつつある気がします。
受講できなかった方々からアーカイブ動画配信の要望も聞きますが、そうした会員の希望に対応することを今後の課題として受けとめております。

★会員頁もご覧ください★

講師の市川裕先生

当日のプログラム

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