2025年度 数学情報勉強会 (ハイブリット開催)
「人の心・感情を計る情報技術」
実施日 2026年3月7日(土)13:30~15:30
会場 津田塾大学千駄ヶ谷キャンパス同窓会会議室
講師 菅谷みどり氏(芝浦工業大学工学部教授)
菅谷みどり氏は、心・感情といった「目に見えない無意識の現象」を計測し、可視化し、共有できる形にするという情報技術による最先端研究に取り組んでおられます。ご講演では研究の一端を紹介され、その社会的意義についてお話になられました。
ご講演の内容は以下のとおりです。
・背景
・生理指標を用いた感情研究とは?
・生理指標を用いた感情研究の応用
-感情評価のさまざまな応用
-工業分野、医療・健康分野、チームビルディング
・課題とチャレンジ
-まだ達成されていない世界、人の感情はどのように「生成」されるのか?
-感情評価の基盤となる研究
・津田塾大学で学んだこと
-問いかける力、1年生からのゼミ、公開講座「共に生きる」
-成長とは何か?
・芝浦工業大学と研究室
-工業大学の魅力
本研究の最初の動機は、「人の心をどのように客観的に捉えられるか?」というものです。例えば、モノづくりを行う立場で、どうすれば人が良いと感じるものを作れるのか?と考えた時に、人がそのモノを「良い」と感じたことを数値化できれば、それを最大化してモノづくりができます。こうした方法は、自動運転中の快適な感情支援や、介護の現場でのロボットの活用に良い印象を持ってもらうなど、さまざまな場面で応用ができます。この目的を実現するためには人の感情を推定する技術を確立することが重要です。日本人の場合、アンケート調査や表情からの解析では被験者の性向によって誤差の変動が大きいという問題があります。けれどもセンサーを利用した生体情報ではリアルタイムの推定が可能なうえ、認知の差による影響を受けにくく恣意的な表現が反映されないことが確認されています。
従来の感情モデルは認知的な側面のみを考察してきましたが、感情の本質を捕捉するには生理的側面への考慮が必要です。日本語の中には体の部位を使って感情を表す言葉があります。例えば、「手に汗握る」、「腹が立つ」、「心が躍る」などの表現は人の感情が体と一体化していることを表しており、古来より心は生体反応表現として認知されてきました。すなわちそれは、末梢神経、心臓、内臓の活動や発汗などの生体反応を計測することで情動状態を推定することが可能であることを示唆しています。また人間は生体の危険に対して、全力でそれに立ち向かうか逃げ出すかを自律神経の働きにより無意識かつ高速に動作できます。このように、人間に本来備わっている働きとそれを代表する生理指標である脳波と自律神経の反応を計測すれば、情動感情を推し量ることができると考えました。単一あるいは少数の指標では不十分ですが、脳波と心拍を考慮し、さらに心理学の知見を組み合わせることによってリアルタイムに感情を評価することが可能となります。こうした考え方が、感動する空間の評価や、漫画や映画視聴中の感情、人の気持ちによりそう介護ロボットなどに生かされています。
こうした応用の一つで、2025年度に実施した研究を紹介します。最近、心理的安全性が高いほどチームパフォーマンスが高いと言われています。我々も同様の仮説をたて、サバイバルゲームで複数人での感情評価の実験をしたところ、仮説とは逆に、心理的安全性が低い中で生理的に深く同期したチームが高い成果を出すという結果が出ました。これは心理的安全性が低い環境で議論が活発化し、感情の同期レベルが高まり、良い成果につながったものと考えられます。このように、生理指標を用いた評価を行うことにより、真実の人間の反応を数値化して捉えることができる点が大変やりがいがあり、興味深いところです。
ご講演について、以下のような質疑応答がありました。
まず「うつ病診断への活用」についての質問には、「ある特定の脳波によって判断できることがわかってきています。うつ病・双極障害・発達障害のAIモデル構築に向けてはベルギーの大学との共同研究が進んでいます」との返答でした。
またチームパフォーマンスに関する質問には、「一つの指標で判断するものでも過度に重視するべきものでもないと考えます。けれども生理的な側面をないがしろにせずに、自律神経に支配されていることを認めつつ、最終的には人間関係の理解がどう深まるか、ということではないかと考えます。人間の本質を見る目を養うことにもこの研究の存在意義があるのではないかと思っています」とのお答えでした。
最後に津田塾で学んだこととして、1年生からのゼミや公開講座などを通して考える力とともに問いかける力をつけられたこと、社会的な視点の広がりや英語力を鍛えられたこと、我が道を行けという教授からの励ましが心に残っていたことなどをあげられました。国際関係学科卒業後のITベンチャーでの下積みの経験を活かして早稲田大学理工学部の大学院に進まれましたが、頑張っている津田塾の仲間の存在が刺激になったそうです。
「人の心・感情を計る情報技術」という最先端研究についてとてもわかりやすくお話してくださいました。今後はさらにロボットや福祉・介護分野への応用などによって、最先端技術を豊かな社会の創造につなげていくことができるというビジョンの広がりを感じることができました。
会員専用ページもご覧ください。
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